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帰りの電車は満席状態だったので、一日中歩き回って疲れてはいましたが仕方なく通路に立っていました。しかし、カラコさんだけは席が無いと見るやすぐに通路のど真ん中に座り込みました。言うまでもなく、通路に座り込んでいる人間など周りにはいません。カラコさんだけが、恥も外聞もなく我が物顔で地べたに体育座りをしているのです。「育ちが出るな。」 私はそう思いながら、ドン引きしている台湾人を傍目に、なるべく他人のフリをしてろみちゃんと話をしていました。

台北に戻った我々は、超高層ビル「台北101」をチラ見した後、最終日の夜を満喫すべく、台湾最大のゲイタウン「西門町」へ行きました。ゲイタウンと言っても、街の雰囲気は渋谷の様な普通の繁華街とあまり変わりませんでしたが、いったんお店に入ると、店員さんはほぼ全員筋金入りのホモでしたし、お客さんもホモっぽい人が多かったので、「そう来なくっちゃ」と思いました。

とは言え、私は過去に新宿二丁目で東南アジア系の「自称マイクロソフト勤務」のオカマに記憶が無くなるまで飲まされてディープキス(だけで済んだかは定かではないが)をされた経験があるので、最初は警戒していました。しかし、周りの男性達は私やカラコさんのお尻をイヤらしい目つきでジロジロ見てくる訳でもなく、店員さんもフレンドリーではあるが礼儀正しい感じだったので、私とカラコさんはすぐにお気に入りのおデブさんを見つけて仲良く写真を撮ったりしていました。ろみちゃんも、心なしかいつもよりハメを外した感じで店員さんと中国語でおしゃべりを楽しんでいました。

「台湾に来て本当に良かった」

私はろみちゃんの100万元の笑顔を眺めながら、「台湾のアヌス」西門町でお酒をビュンビュン飲み干していきました。

楽しい宴の夜もだいぶ更けて来た頃、カラコさんがトイレに立つと、そのすぐあとを追う様にろみちゃんもトイレに行きました。しばらくして、2人は一緒にトイレから戻って来ましたが、カラコさんは急にシラフに戻った様な顔つきで、ろみちゃんも暗い顔で俯きながら席につきました。カラコさんは、「ろみちゃんがもう終電無いから、俺らのホテルに泊めよう。」と言いました。私は、ずっと下を向いているろみちゃんが気にはなりましたが、思いがけずろみちゃんが自分たちの部屋に来る事になったので、素直に喜びつつ、その店を後にしました。

我々3人はタクシーでホテル近くのコンビニまで戻り、そこでお酒とおつまみを買いました。コンビニからホテルへ歩いて帰る道すがら、公園の前を通りがかったところでカラコさんは急に私の肩を掴み、「ちょっと話がある」と言って、私を公園の中へ連れて行きました。すると、ろみちゃんは我々2人から逃げるかの様に、公園の奥へと走って行きました。

何が起こったのか頭の整理がつかないうちに、カラコさんは私に告げました。

「さっきの店でションベンしてたら、急にろみちゃんが男子便入って来て、『実は私もう彼氏居るのに、恥骨くんが本当に台湾まで来ちゃって、どうしていいかわからない』っつって、泣きながらこのプロテイン俺に返して来た。』

私はカラコさんからプロテインを受け取り、公園の奥の方にいるろみちゃんを見ると、しゃがみこんで泣いているようでした。

私はどこか他人事のような気持ちで、カラコさんと一緒にろみちゃんの所まで行き、とりあえず自分たちの部屋へ行こうと言って3人で部屋へ戻りました。

皆、何を言えば良いのかわからないといった気まずい雰囲気の中、我々はとりあえず買って来たお酒とおつまみをベッドの上に広げて飲み始めました。とは言え、当然さっきまでの様に楽しく話しながら飲むのは難しいので、買って来たトランプで大貧民をしながら、朝まで飲む事にしました。

最初のうちは、負けたら普通にテキーラショットの罰ゲームにしていましたが、途中からカラコさんの提案により、恥骨が負けた時に限ってはテキーラショットに加えて、ろみちゃんのローキックも受ける事になりました。

その後すぐ、私はゲームに負けてろみちゃんからローキックを受ける事になりました。ろみちゃんは立ち上がってフーッと息をつくと、今まで聞いた事もないくらいの大声で「てめぇキモいんだよ!」と叫びながら私の肩に全力ローキックをお見舞いしました。カラコさんはその様子を見て満足そうに高笑いをしていました。

その後も私が負ける度に、ろみちゃんは思いつく限りの罵詈雑言を私に浴びせながら、思いっきりローキックを叩き込み続け、私の肩が赤く腫れ上がる頃には、すでに窓の外は明るくなっていました。ろみちゃんはかなり泥酔していましたが、始発の時間きっかりに私たちの部屋を出て行きました。出がけに、「私は自分がカワイイ事は自覚しているし、それに見合う人とじゃないと絶対付き合わないから。」と吐き捨て、我々の元を去って行きました。

好きな女の子に、異国の地で一晩中蔑められるというプレイを終えたばかりなので、少しくらい感傷に浸りたいところでしたが、帰国フライトが早朝便であったため、息つく間もなくパッキングをして、午後便で帰国のカラコさんを部屋に残して急いで空港へ向かいました。

二日酔い・睡眠不足・失恋で、心身ともにボロボロの状態でしたが、なんとかギリギリセーフで空港に到着し、帰国便に搭乗しました。すると、なぜか座席がアップグレードされており、一番前の座席に通され、訳も分からないままウェルカムシャンパンを出されましたが、酒など見たくもなかったので、代わりにお水を持って来てくれるようにお願いしました。2時間弱のフライトは、ずっと気絶したように眠りました。

お昼前に福岡空港に到着し、そこから大分まではソニックという特急列車で帰りました。窓際の指定席に腰掛け、外の自然豊かな景色を眺めていると、そこでやっと自分はフラれたんだなという実感が湧いて来ました。しかし、フラれはしましたが、この台湾での三日間は私にとって夢のような時間で、最高に楽しかった事は紛れもない事実であり、まだ新鮮すぎる思い出が次々とフラッシュバックしてくると、涙が止まらなくなりました。

「泣くな恥骨、お前さんは良くやったよ」

誰かにそう慰めて欲しくて、私はメソメソ泣きながら高校時代の友人に電話をかけ、事の顛末をつらつらと話し始めたのでした。